(仮)花嫁契約 ~元彼に復讐するはずが、ドS御曹司の愛され花嫁にされそうです⁉~

(仮)花嫁契約 ~元彼に復讐するはずが、ドS御曹司の愛され花嫁にされそうです⁉~

last updateDernière mise à jour : 2026-02-28
Par:  花室 芽苳En cours
Langue: Japanese
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学生時代からの恋人である、守里 流(ながれ)から突然の婚約破棄!? その理由は彼の会社の御曹司、神楽 朝陽(あさひ)という男の所為だと聞かされた鈴凪(すずな)。 あっさり恋人に捨てられてしまう鈴凪。 怒りにまかせて、婚約破棄の原因である神楽 朝陽に会いに行くが…… 「元カレに復讐するつもりなら……いっそ、世界一の愛され花嫁になってみないか?」 追い詰められた鈴凪に、謎の提案を持ちかける神楽。 どうやら彼も、なにやら訳ありのようで――? 眼鏡を外すとドSに変貌する御曹司、神楽 朝陽 × 明るさと前向きな姿勢が取り柄の雨宮 鈴凪  元カレの流に復讐するため、鈴凪は朝陽の愛され花嫁になりきるはずだったのだがーー? 表紙AI学習禁止

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Chapitre 1

prologue

「ええと、お約束はされてますでしょうか? でなければ、ちょっと……」

 有名企業の自動ドアをくぐって直ぐ、受付担当の若い女性が困ったような表情で私をその場に引き止めてきた。

 当然と言えば当然の足止めを食らって、どうしようかと迷っている時。偶然にターゲットが数人の部下と共に歩いてこちらに向かってくるのが見えた。

 すぐ隣の美人は秘書……だろうか?

 上司と部下にしては、随分距離も近いように見える。彼に聞いた通り、きっと軽薄で無責任な男に違いない。

「ああ、もう大丈夫です。今日の私は運が良いみたいなので」

「え? あの、お客様!?」

 新人であろう受付の女性からの返事も聞かず、私は目的とする人物へと迷いなく向かって行く。

  ……この時の自分がちょっとラッキーどころか、完全に幸運の女神に見放されているとも知らずに。

 ターゲットの目前に憮然と立ちはだかり、これ以上ないくらいの笑顔を相手に向けた。

「あなたが神楽《かぐら》朝陽《あさひ》さん、ですよね? はじめまして、そして……!」

「は? え、おいっ!? ……っぐ!」

 すぐに標的を殴れるようにと準備しておいた拳を、その男めがけて遠慮なく繰り出した。突然現れた女に殴られることなど予想しなかったであろう、その男性は私の拳を顔面で受け止める羽目になったのだが。

 それでも私の怒りはとてもじゃないが納まらない。この男の所為で自分の人生が大きく狂わされたのだと思うと、後二~三発ほど殴らせてもらいたいくらいで。

「お、お前はなんてことをしてるんだっ! この男性が誰なのかを知らないのか!?」

「いいえ、ちゃんと知ってますよ。神楽 朝陽、この神楽グループの御曹司様でしょう? 最初に名前を確認したじゃない」

 コイツの取り巻きか何からしい男が私に真っ青な顔してわあわあ言ってくるけれど、そんなこと知った事じゃない。私がここまでするのにはちゃんと理由がある、これは立派な復讐なんだから。

「……へえ、じゃあ貴女は俺を神楽 朝陽だと知ったうえでこの暴挙に出たと? 随分勇気ある女性ですね、面白い」

「そう? 私は全然面白くないけれど。こういうのがお好きなら、もっと殴って差し上げましょうか?」

 そうは言ったものの、すでに私は数人の男性から身体を拘束されているので実現するのは難しいだろう。

 一回だけなのに殴った拳はジンジンと痛いし、ギリギリと複数人に抑えつけられていて窮屈だ。

 ……これも全部、元はと言えばこの男のいい加減で軽薄な行動の所為だというのに。薄っすらと意地の悪い笑みを浮かべる神楽 朝陽を、私は負けじとギリギリと睨み返しすしか出来ないが。

 ――それでも私が、こんなとんでもない行動に出たのにはちゃんと訳があって。

 けれど感情的になって喧嘩を売った相手が、この神楽朝陽でなかったら……そう何度も彼に悩まされ、この胸を痛めなければならない未来が待ってるなんて。

 この時の私は、本当にこれっぽっちも想像していなかった。

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ぷっかりん
ぷっかりん
女は度胸?猪突猛進過ぎて笑える(笑)それにしても元恋人のクズはなんなの!女に貢がせて借金まで押し付けて!御曹司は何を考えてるのかな?自分を殴った女に興味を持つなんて。続きが気になります!
2026-03-17 09:23:27
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hana
hana
鈴凪と朝陽の出会いが面白い。殴りにいくの好きすぎます。 元カレ元カノの非道に対してザマァ感は少なくまろやかだけど、鈴凪のお人好しが出てる感もあってこれはこれでいいかも…と。 白澤さんやシオさんみたいに守ってくれる人が周りにいるのもよい。(白澤さんとシオさんのスピンオフ読んでみたいです…!)
2026-03-07 02:03:55
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prologue
「ええと、お約束はされてますでしょうか? でなければ、ちょっと……」 有名企業の自動ドアをくぐって直ぐ、受付担当の若い女性が困ったような表情で私をその場に引き止めてきた。 当然と言えば当然の足止めを食らって、どうしようかと迷っている時。偶然にターゲットが数人の部下と共に歩いてこちらに向かってくるのが見えた。 すぐ隣の美人は秘書……だろうか? 上司と部下にしては、随分距離も近いように見える。彼に聞いた通り、きっと軽薄で無責任な男に違いない。 「ああ、もう大丈夫です。今日の私は運が良いみたいなので」「え? あの、お客様!?」 新人であろう受付の女性からの返事も聞かず、私は目的とする人物へと迷いなく向かって行く。  ……この時の自分がちょっとラッキーどころか、完全に幸運の女神に見放されているとも知らずに。 ターゲットの目前に憮然と立ちはだかり、これ以上ないくらいの笑顔を相手に向けた。「あなたが神楽《かぐら》朝陽《あさひ》さん、ですよね? はじめまして、そして……!」「は? え、おいっ!? ……っぐ!」 すぐに標的を殴れるようにと準備しておいた拳を、その男めがけて遠慮なく繰り出した。突然現れた女に殴られることなど予想しなかったであろう、その男性は私の拳を顔面で受け止める羽目になったのだが。 それでも私の怒りはとてもじゃないが納まらない。この男の所為で自分の人生が大きく狂わされたのだと思うと、後二~三発ほど殴らせてもらいたいくらいで。「お、お前はなんてことをしてるんだっ! この男性が誰なのかを知らないのか!?」「いいえ、ちゃんと知ってますよ。神楽 朝陽、この神楽グループの御曹司様でしょう? 最初に名前を確認したじゃない」 コイツの取り巻きか何からしい男が私に真っ青な顔してわあわあ言ってくるけれど、そんなこと知った事じゃない。私がここまでするのにはちゃんと理由がある、これは立派な復讐なんだから。「……へえ、じゃあ貴女は俺を神楽 朝陽だと知ったうえでこの暴挙に出たと? 随分勇気ある女性ですね、面白い」「そう? 私は全然面白くないけれど。こういうのがお好きなら、もっと殴って差し上げましょうか?」 そうは言ったものの、すでに私は数人の男性から身体を拘束されているので実現するのは難しいだろう。 一回だけなのに殴った拳はジンジンと痛いし、ギリギリ
last updateDernière mise à jour : 2025-08-01
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婚約破棄は突然に
 ――それは、遡ること十数時間前――「ええっ、今の会社をクビになるかもしれない!? そんな急に、いったいどうして?」 私は目の前にいる恋人、守里《もりさと》 流《ながれ》の話を聞いて驚きを隠せないでいた。 彼は一流企業、神楽《かぐら》グループの正社員で営業成績も優秀だと聞いている。そんな流がいきなり会社から解雇だなんて、どうして……? すると彼は顔を上げて申し訳なさそうに私を見つめた後、その理由をポツポツと話し始めた。「神楽グループには御曹司である神楽 朝陽《あさひ》という男がいるんだが、そいつがちょっと厄介な人物でさ。その……御曹司という立場もあって、とにかく女性問題が絶えないとは聞いていたんだけど」「……なに、それ? その人の女性関係がどう関係あるのか、ちょっと私には分からないのだけど」 神楽グループには次期代表取締役と言われる、御曹司の神楽 朝陽という男性がいることは私だって知っている。 彼はテレビやラジオでもイケメン御曹司と持て囃され、忙しい毎日を送っているとミーハーな同僚たちから聞いたこともあった。 ……だけどその御曹司の女性関係と流の解雇、そこにいったいどんな関係があるというのだろうか?「その御曹司の起こした女性問題を、俺がやった事にされて。責任を取って、その女性と結婚の約束までさせられたんだ。そうしなきゃ、その問題を理由に解雇するって脅されて……俺、いつの間にかそいつに目を付けられてたみたいでさ」 そう流は説明してくれるが……どういう理由でそうなったかもよく分からないし、なぜそれが流である必要があるのかもハッキリしない。 それなのに休む暇なく言葉を続ける彼に圧倒され、理解出来ないまま話が進んでいく。「だから俺もどうしていいか悩んで、凄く辛くてさ……」「でも、流は優秀な営業だって言ってたじゃない? いつも成績だってトップなんだって、それなのに解雇なんて……そんなの、どう考えてもおかしいでしょう?」 「そうなんだけど、あの男は普通じゃない事を言い出すような奴なんだよ! だからごめん、鈴凪《すずな》。俺、お前と約束していた結婚は出来そうにない。申し訳ないけれど、今日を最後に別れてくれ!」 ……は? どこがどうなって、私と流の婚約が白紙にされるのか全く意味が分からない。 第一に流《ながれ》は自分は解雇される事が決定したよう
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裏切りは計画的に 1
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裏切りは計画的に 2
「……へえ、そうなのか?」 取り巻きの男性の言葉にさして興味がないというように返事をした神楽《かぐら》 朝陽《あさひ》だったが、私はほんの一瞬だけ彼が眉を寄せたのを見逃さなかった。 でも、あの方いうのは……? いいえ! 今は、そんなことはどうだっていい。この場でハッキリさせなければならないのは、元カレの流のことに変わりない。 そもそも今の話が本当なのならば、私の婚約破棄は何のためだったというのか?「でも! 流《ながれ》は貴方の女性関係が理由でクビになるから、私とは結婚できないって……!」「冷静になって、よく考えてみろ。社員の解雇理由に、俺の個人的な女性関係が関わっているわけないだろう? おおかた、その彼氏の浮気相手に子供でも出来たってところじゃないのか?」 そんなことを平気そうな顔で言われて、体中の血液が沸騰するかと思った。 そりゃあ、他人事なのは仕方ない。 でも冗談とかではなく彼はそれを一つの可能性として、流の元婚約者である私に話してくるのだ。 まるで自分にとってはどうでもいい事だ、と言わんばかりに。「一つだけ、きちんと説明しておくが……俺はビジネスにプライベートな事は持ち込まない主義だし、異性との問題を起こした覚えもない。しかも神楽グループは徹底した実力主義で、個々の能力に合わせた給与システムとなっている。もしその男が解雇されるというのなら、それは単なる本人の努力不足だろう」「そんな……」 ずっと流は私に自分は一流企業のエリートだと話していた。結婚して二人で幸せな家庭を作ろうって言葉も、裏が疑うとなく信じて。 だから……… そこで私は、二人にとって大事な約束を忘れていたことを思い出した。「そうよ! 二人で貯めてたはずの結婚資金、あれはどうなったの?」「……はあ? そんなもん、俺が知るかよ」 べつに神楽《かぐら》 朝陽《あさひ》に聞いたわけではないのに、勝手にそんな不機嫌な返事をされても困る。 でもそんなことをいちいち気にしてられる状況ではなくて、私はバックの中からスマホを取り出して急いで指で操作する。 毎月五万という金額を流《ながれ》に渡していた、彼がきちんと貯めてくれると約束したから。 けれど一方的に婚約破棄された上、その事について一言も彼は話さなかったし……もちろんお金も返してもらってない。  私たちが付き合っ
last updateDernière mise à jour : 2025-08-01
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裏切りは計画的に 3
 美人で品のある女性の隣を歩いているのは、元婚約者の守里《もりさと》 流《ながれ》だった。 彼は私がここにいる事にも気付きもせず、横にいるキャリアウーマンと言った感じの美女に話しかけていた。 「もう別れた」「俺の本気」とは? クビになるから、私と結婚出来ない。だから別れて欲しいって、流は私にそう言ったよね?  頭の中が混乱する、流の言葉と今の彼の言動は全く一致してなくて。「……へえ、あれが守里 流か。どこがいいんだ? あんな軽薄そうな男の」「…………」 神楽《かぐら》 朝陽《あさひ》の嫌味な問いかけに応えるような余裕も今はない、ただ目の前の現実を理解するので精一杯で。「しかし、隣にいるのは鵜野宮《うのみや》 梨乃佳《りのか》か。まさか、高嶺の花と呼ばれる彼女があんな男を相手するとはな」「いやいや。あんなのは、梨乃佳様の遊び相手に過ぎないでしょうから」 神楽 朝陽の呟きに、取り巻きの一人がすかさずフォローを入れる。 それが鵜野宮 梨乃佳という女性に対してなのか、それとも神楽 朝陽に対してのフォローなのかがよく分からなかったが。 そもそも今の私には他人の事を気にしている余裕などない。だが、この状態を流に見られたくもない。なのに、神様はどこまでも残酷で……「あら、まあ? 何かあったのかしら」 「え? ああ、なんか人が集まって……ん? もしかして、あれは鈴凪《すずな》?」 「あの女性は、流君の知り合いなの?」 「鵜野宮さん」と呼ばれた女性が、彼に笑顔でそう訊ねる。その呼び方に、二人の親密さを感じてどうしようもなく胸がざわついた。 だけどそんな私に、蔑むような視線を向けた流は信じられない事を言った。「いえ、昔の知人に似てた気がしただけで。あんなみっともない女と知り合いなわけがないでしょ? さあ行きましょう、鵜野宮さん」「そう? 案外、流君の元恋人だったりするんじゃないの? ふふっ」「まさか! 俺は鵜野宮さん一筋ですよ」 そう言って笑いながら私から離れていく、昨日までは婚約者だったはずの男。 決して振り向くこともなく、彼はその女性と共に建物の外へと出て行ってしまった。 嫌でも気付かさせられる、元カレからの一方的な婚約破棄の本当の理由。 すぐに解約されたスマホ。そして、渡したお金はきっともう返ってこないのだろう。 付き合った期間は
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提案は思い付きで 1
「ほら、しっかり歩け。ついさっき、俺を襲撃してきた勢いはどうした?」 「そんなものはとっくに、どこか遠くへ飛んでいきました……」 強引に連れてこられた場所は、神楽《かぐら》グループのビルの最上階だった。一般人が入れないようなしっかりとしたセキュリティ、それを解除して彼はどんどん奥へと進んでいく。 【社長室】と書かれた部屋の隣、彼はそこのドアを開けると私に中に入るように言った。「あの、私はどうしてここに連れてこられたんでしょうか」 「さっきまでと別人のようだな。そんなにショックだったか? あの程度の男に裏切られたことが」 ハッキリとそう言われて、傷口を抉られてるような気分になる。神楽 朝陽《あさひ》にとっては【あの程度の男】なのかもしれないが、私にとって守里《もりさと》 流《ながれ》は結婚を考えるほど好きだった男性なわけで。 ショックを受けるなという方が無理があるのではないかと思う。それなのに……「そんなしょぼくれたような顔ばかりするな、この部屋まで辛気臭くなる」 「だったら連れて来なければ良かったじゃないですか、自分が引っ張って来ておいて私に文句言わないで」 落ち込んでることに変わりはないが、こうも言いたい放題言われていてムカつかないわけがない。泣きっ面に蜂の状態なのに、そんな私の傷口に塩を塗りたくるような神楽 朝陽の言動にも腹が立ってくる。 それなのに徐々に言い返すようになってきた私を見て、彼はなぜか楽しそうに笑い始めるではないか。「何がそんなにおかしいんです? 貴方も馬鹿にしたいんですか、彼に裏切られ簡単に騙されてた私を!」「卑屈だな、誰もそんなことは言ってないだろ?」 そう言われても、こっちだって心の余裕がないのだ。信じられない事が立て続けに起こってしまったのだから、卑屈にもなりたくなるでしょう?  だけど神楽 朝陽は、そんなことはお構いなしとばかりに強引に私の顔にハンカチを押し付けてきた。「なんですか、これ?」「……見苦しいから、さっさと使え」 そう言われて、私は自分が涙を零していることに気付いた。さっきの場所で、しかも流《ながれ》の前では泣きたくなくて必死で堪えてたけれど……どうやらそれも限界を迎えていたらしく。 気が付いて涙を止めようとするけれど、それどころかどんどん溢れて。あっという間に先ほど渡されたハンカチがぐ
last updateDernière mise à jour : 2025-08-09
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提案は思い付きで 2
「……すみません、シャツ汚しちゃって」 無言で慰めてくれたいた神楽《かぐら》 朝陽《あさひ》、いつの間にか私は彼のシャツを掴んで泣きじゃくってしまっていたらしく。 申し訳なさから、彼と顔を合わせる勇気もなくそう謝ったのだが……「別に構わない、貴女に請求する迷惑料の中にちゃんと付け加えておくから」「め、迷惑料っ!? いったい何のことですか!」 まさかそんなことを言われるなんて思っていなかった私は、驚きで今度は神楽 朝陽のスーツのジャケットを掴む。 だって、そんな……? すると神楽 朝陽は、かけていた眼鏡のテンプルを指でつまんで外す。眼鏡姿も似合っていたが、外すと彼はまた違った魅力があって。 野生の獣を思わせるような切れ長の瞳が細められて、一瞬だけドキリとする。まるで、自分が獲物として狙われているのかと感じてしまったからだ。「なんの事か、だと? 面白いことを言うんだな。今日・アンタが・ここのロビーで・俺に・何を・したのか、まさかそれさえもう忘れたとでも?」「……そ、それは」 何となく彼の口調が変化したような気がしたが、それについて考えている余裕はなく。 神楽 朝陽が、私が誤解で彼を殴った事について話しているのだということは分かる。実際……この人は流《ながれ》が私を騙すために、勝手にその存在を使われていただけなのだろうし。 流からすれば御曹司を相手に、私が会いに行くなんて思いもしなかったに違いない。だからああもサッサと逃げるように会社の外に出たのだろうから。 しかしいくら流が原因だったとしても、神楽 朝陽を殴ったのは私。その事実はどう足掻いても変わらない。「でも、私にはお金なんて……」 正社員で働いているとはいえ、一人で暮らしのためそう余裕のある生活はしていない。その上、結婚資金として毎月給料日に流《ながれ》に五万も渡していたのだから貯金も無くて。 そんな状態で迷惑料なんて請求されても、どうすればいいのか全く分からない。「アンタの親はもしくは兄弟か姉妹、なんなら祖父母でも構わないが?」「……そんな、家族まで巻き込むんですか?」 神楽《かぐら》 朝陽《あさひ》の言う通り、もし親に泣きつけば少しくらい助けてくれるかもしれない。でもそうすれば、流に婚約破棄されたこともお金を騙し取られたことも全部話さなくてはいけなくなる。 それこそ
last updateDernière mise à jour : 2025-08-10
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提案は思い付きで 3
「そう簡単に逃がしてもらえると思ってるのか? この俺にあんな事をしておいて」「いや、あの~……別に、逃げるつもりだったわけでは……」 ない、とも言い切れない。神楽《かぐら》 朝陽《あさひ》の視線が怖ろしくて、どこかに隠れたいと思ったのは事実だから。でもそんな私の気持ちにはお構いなしで、彼は思い切り距離を詰めてくる。 ……いや、ちょっと近すぎないですか? 凄〜く怖いけれど、神楽 朝陽は間違いなく女性にモテる顔をしていて。心臓がバクバクと音を立てているのは恐怖だけではない気がしたが、あえて気付かないフリをする。 そんな私を揶揄うかのように、彼は親指と人差し指だけで私の顎を持ち上げ強引に視線を合わせた。「勤め先、年齢、最終学歴。あとは、そうだな……趣味と特技ってところか」「……はい?」 言われた言葉の意味が分からず、ポカンと神楽 朝陽の顔を見つめた。 ああ、やっぱりかなりの美形だ。これで御曹司という立場なのだから流の言った通り、きっと女性も選り取り見取りに違いない。 そんなことをぼんやりと考えていたためか……「いっ! いひゃい、ちょっ……いひゃいでふ!」「この状況で俺の顔に見惚れてるなんて、随分余裕があるじゃないか。俺は同じことを二度言わされるのが死ぬほど嫌いなんだが、お前はどうして欲しい?」 両頬を思い切り指で引っ張られて、その痛みから逃れようと必死に顔を背けようとする。自分本位な要求ばかりを押し付けてくるこの人を相手にしていることで、流石に眩暈がしそうになりながら。 ……だけど、どう考えても悪いのが自分だということに変わりなくて。このまま彼の滅茶苦茶な要求も、甘んじて受け入れる覚悟を決めようとしてたのだけど。「……で、アンタの返事は?」 そう言ってにやりと笑う神楽 朝陽は、絶対に性格が悪いと思う。私の答えを待っているように見せかけて、こっちが焦っているのを楽しんでいるのだから。 たとえ私がどんな返事をしても、きっとこの男に都合よく言い換えられるに違いない。 それならば……「私の勤め先は堂崎《どうざき》コーポレーションで、そこで営業補佐をしています。歳は先月二十五になったばかりで、最終学歴はW大卒業です。他は……確か、趣味と特技でしたよね?」「……へえ、あんな状態でもちゃんと聞いてたのかよ」 別に神楽 朝陽の質問を聞いていなか
last updateDernière mise à jour : 2025-08-11
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提案は思い付きで 4
 しかも、それが迷惑料とどう関係があるのか分からない。だからといって余計な事を言うと、この男からとんでもない返答がくるような気がして止めておいた。 それも無意味な事だったという事に、数分もせずに気付かされたのだけど。「近いうちに、アンタと俺はある契約をすることになるだろう。それで、今回の迷惑料はチャラにしてやる」「……契約って? そんなの内容を聞かなければ、私に出来るかなんて分からないんですけど」 少し考えた様子を見せた後、神楽《かぐら》 朝陽《あさひ》はそう提案してきたけれど。その契約内容については一切説明がない。 迷惑料がチャラになるのは有難いけれど、受けるかどうかはその中身にもよると思うのだが。「こちらで契約書は用意しておく、契約内容についてはその日に話せばいいだろう。丁度良い時期に、人材が見つかったんだし? その時になってやりたくないと逃げだされても困るしな」「……その話を受けない。もしくは契約拒否という選択肢は、私には無いんですかね?」 私が逃げ出すような内容なら、きっと碌でもない契約に違いない。ギリギリに話してそのまま契約させてしまおうという魂胆なのか…… どうせなら「意外とセコイ手を使うんですね」とハッキリ言ってやりたいのだが。「拒否、ねえ? 俺と神楽グループに支払う迷惑料、アンタがすぐに払えるというのなら話は別だが」 いつの間にか神楽グループの迷惑料まで付け加えられていて、ぐうの音も出ない。綺麗な顔をしているのに、本当に嫌な男なんだと思い知らされるばかりだ。「分かりました。じゃあ私は、貴方からの連絡を大人しく待っていればいいんですか?」「……ああ、どうせすぐに連絡することになるだろうからな。それまで良い子で待ってろ」 私はご褒美を待つ子供じゃないんですけれどね? しかも待ってなきゃいけないのが、嬉しい事ですらないのに。そう言いたいのを我慢して神楽 朝陽を見つめれば、彼は満足そうに片方の口角を上げる。 そんな風に男の色気を無駄に振りまくのは止めて欲しい。 こんなドSな性格でなければ、私もこの男に興味くらいは持ったかもしれない。今の本音はコイツとはこれ以上は関わりたくない、になってしまってるけれど。「連絡先と……おい、アンタの名前は?」「雨宮《あまみや》、雨宮 鈴凪《すずな》です。連絡先は080-××……ああ、メモ
last updateDernière mise à jour : 2025-08-12
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提案は思い付きで 5
 《ピリリリリリ、ピリリリリリッ……》 朝から鳴り響くスマホの着信音で目を覚ます。 今日は休日のはずなのにどうして起こされなくてはいけないのかと、苛立ちながらスマホのディスプレイを確認する。時計を見ればまだ午前八時前、しかも画面に映された番号は未登録で全く身に覚えがない。 無視してもう一度寝ようとするが、何度も繰り返されるコール音に否が応でも起きるしかなかった。「……もしもし?」『もしもし、雨宮《あまみや》 鈴凪《すずな》さん? いきなり掛けてごめんなさい、私は長谷川コーポの大家なんだけど……貴女が守里《もりさと》 流《ながれ》さんの保証人になってる雨宮さんよね?』 なるべく低い声で電話に出ると、相手はまさかの大家さんだった。 ……ただし私の住んでいる家ではなく、元カレである流の賃貸アパートの大家だという。嫌な予感がするが、保証人になっていたのは事実なので話を聞くしかなくて。『守里さんね、家賃を半年近く滞納してたのよ。それなのに今朝になって集金に行ったら、部屋はもぬけの殻でね。電話も繋がらないから、貴女が何か知ってるんじゃないかと思って……』「つまり守山さんは家賃を滞納したまま勝手にアパートから出て行った、という事でしょうか?」 保証人の私に電話がかかってきたという事は、大家さんも流を探しているのだろうけれど……そんな彼の居場所など、別れた私にも分かるはずがなく。 それよりも、もっと心配なのは……『そうねえ、滞納していた家賃もそのままで。私も本当はこんな事は言いたくないけれど、貴女が守里さんの保証人になっていらっしゃるからね』 続く言葉なんて簡単に想像出来る。 本当にどうして私の人生はこうなってしまったのかと、寝起きの頭を抱えるしかなかった。『……で? 元カレ、守里 流の連絡先が知りたい? はっ、俺がそんなもの知るわけがないだろう。そもそも借りがあるのはアンタの方で、俺が何かしてやる義理はない筈だが』「それは重々承知してるんです。痛い程分かってるんですが、こっちにも事情がありまして。神楽《かぐら》さんの立場なら、流と連絡を取る方法を調べるくらい簡単なんでしょう?」 神楽 朝陽は相変わらずの塩対応だが、もうそんな事を気にしてはいられなかった。 なにせ元カレの流が滞納していた家賃が何と、四ヶ月分。しかも部屋の使用状態がかなり悪かった
last updateDernière mise à jour : 2025-08-13
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